四肢損傷の解説 Ⅰ 上肢の損傷(手指,手関節,橈骨,尺骨,上腕骨,肩関節,鎖骨) 鎖骨骨折 (1)鎖骨は大変折れやすい骨である。 鎖骨骨折は通常8字包帯や鎖骨バンドで固定して骨癒合をはかる。 骨折部の転位が高度で整復不能な場合,第3骨片がある場合,肩鎖関節脱臼を伴う場合は観血的手術をして プレートで固定し骨癒合をはかる。 (2)後遺障害 鎖骨骨折は変形癒合する場合が多く見られます。 裸体となったとき,変形が明らかにわかる場合は,「鎖骨に著しい変形を残すもの」として12級5号認定 となります。 上腕骨骨折 (1)上腕骨近位端骨折 上腕骨の骨頭部の骨折です。骨折後の骨癒合は良好な部位です。 治療は徒手整復後に懸垂ギプス包帯をして固定する。 (2)上腕骨骨幹部骨折 上腕骨の中央部の骨折であり,骨折部が転位する場合が多く,合併損傷として橈骨神経麻痺が発生する ことが多い。前腕骨の橈骨側や親指・示指のシビレが発生する。 ギプス固定等の保存療法が不可能なときや橈骨神経麻痺を伴う時は手術療法を行う。 この骨折は比較的に偽関節になりやすい。 (3)上腕骨遠位端骨折(上腕骨下端部骨折) 上腕骨の肘関節に近い部分の骨折です。 治療法の良否によって,上腕骨遠位端骨折の変形癒合,フォルクマン拘縮(前腕諸筋が全く使用にたえな いものとなる。),橈骨神経・正中神経損傷とうの合併症が出ることがあるので注意をようする。 前腕骨骨折 (1)モンテアジア骨折 橈骨関節の脱臼と尺骨骨折を合併するのが特徴である。 (2)前腕骨骨幹部骨折 この部位の骨折は,整復と固定保持が難しく,偽関節をつくりやすい。 開放骨折の場合は,初めから創外固定が行われる。 (3)橈骨遠位端骨折 ①コーレス骨折 橈骨遠位端の斜骨折であり,非常に多い骨折である。 ②スミス骨折 橈骨遠位端の甲側から斜めに骨折線が入る骨折である。 いずれもギプス固定をするが,高齢者の場合は創外固定をする。 Ⅱ 下肢骨折 1.大腿骨骨折 (1)大腿骨頸部骨折 この骨折は,①骨頭書骨折,②中間部骨折,③転子間骨折,④転子貫通骨折の4つに分けられます。 ①と②は関節包内の骨折であり,内側骨折という。③と④は関節包外骨折であり,外側骨折という。 内側骨折は難治性で,後遺障害を残しやすい。例えば高齢者であれば,沈下性肺炎,老人性痴呆など,一般 的には偽関節,骨頭の無腐性壊死,変形性股関節症をおこしやすく,股関節の機能障害を残します。 治療としては,これらの合併症を防ぐため,ネイルプレート,エンダ―釘,コンプレッション・ヒップ・ス クリュー,キルシュナ―鋼線などの内固定材料で手術療法を行います。高齢者の場合は人口骨頭置換術を積 極的に行っています。 (2)大腿骨骨幹部骨折 大腿部の筋肉により転位を起こしやすいので,治療は手術療法を行います。 キュンチャ―髄内釘が主な方法です。 (3)膝蓋骨骨折 膝蓋骨の骨折の治療は,原則として手術的に行う。鋼線締結法が行われることが多い。 (4)脛骨骨折 転位の小さいものは徒手整復してギプス固定する。 転位が大きいものや2カ所で骨折を生じた場合は,脛骨にキュンチャ―髄内釘などの内固定材を用いて手術 を行う。 (5)腓骨骨折 腓骨だけの骨折の場合は,徒手整復してギプス固定する。骨癒合しなくても足の機能には問題を残さないの で偽関節のままにしておく。 (6)足関節の骨折 骨折には,①内転骨折,②外転骨折,③垂直圧迫骨折に大別できますが,いずれの形も脱臼骨折であり,亜 脱臼が残らないように正しく整復しなければ,やがては変形性足関節症となる。 転位がほとんどなく,脱臼が軽度の場合はギプス固定を行うが,転位があり,ギプス固定では固定性が不十 分なものなどは手術術療法を行う。 Ⅲ 上肢の機能障害 上肢の3大関節(肩関節,ひじ関節,手関節をいいます。)機能障害は以下の3つに分けられています。 ①「関節の用を廃したもの」とは,関節が完全強直または完全硬直に 近い状態となったものです。完全強直したものとは,関節の可動 域が全くないものをいい,完全硬直に近い状態となったもとは, 健側の関節可動域の10%程度以下に制限されているものをいい ます。 ②「関節の著しい機能障害を残すもの」とは,患側の関節可動領域が 健側の1/2以下に制限されたものをいいます。 ③「関節に機能障害を残すもの」とは,患側の関節可動領域が健側の3/4以下に制限されたものをいいま す。 可動域は原則他動値で測定し健側と比較します。神経・靭帯・腱が損傷されている場合には自動値で 測定します。 肩関節の機能障害の評価方法 主要運動の可動域が1/2または3/4をわずかに上回る場合,その関節の参考運動が1/2以下または3/ 4以下に制限されていれば,著しい機能障害または単なる機能障害を認定することが出来ます。 この場合の「わずかに」とは,原則は5度ですが,肩関節・手関節の著しい機能障害に当たるか否かを判断す るときは10度となります。 主要運動が複数ある場合は,主要運動のいずれか一方の可動域が該当すれば認定されます。 (1)肩関節の主要運動 ①屈曲(前方挙上)・・・参考可動域角度180° ②外転(側方挙上)・内転・・・参考可動域角度180° (2)肩関節の参考運動 ①伸展・・・参考可動域角度50° ②外旋・内旋・・・参考可動域角度140° ひじ関節 ひじ関節には参考可動域はありません。 (1)ひじ関節の主要運動 ①屈曲・伸展・・・参考可動域角度150° 手関節 (1)手関節の主要運動 ①屈曲・伸展・・・参考可動域角度160° (2)手関節の参考運動 ①橈屈・尺屈・・・参考可動域角度80° Ⅳ 下肢の機能障害 下肢は,股関節,ひざ関節,足関節が3大関節です。 股関節 (1)股関節の主要運動 ①屈曲・伸展・・・参考可動域角度140° ②外転・内転・・・参考可動域角度65° (2)股関節の参考運動 ①外旋・内旋・・・参考可動域角度90° ひざ関節 (1)ひざ関節の主要運動 ①屈曲・伸展・・・参考可動域角度130° 足関節 (1)足関節の主要運動 ①屈曲(低屈)・伸展(背屈)・・・参考可動域角度65° 1.下肢の機能障害 (1)右膝関節の機能障害の例 ①右脛骨上端部骨折(脛骨高原骨折)後に骨折部が不正癒合したため、右膝関節面の不正が発生し、 リハビリを6カ月したが右膝関節(患則)の運動可動域が、左膝関節(健側)の運動可動域と比較して 4分の3以下に制限された。同時に右膝の歩行時痛が残った。 本件の場合、「右膝関節の機能に障害を残すもの」として12級7号該当となります。 ※1)右膝関節の機能障害12級7号を認めた場合は、右膝の歩行時痛は別途に認められずに右膝関節の機能 障害12級7号に含まれます。(理由は、両方の原因が右脛骨上端部骨折後の不正癒合に原因するから です。但し、右膝関節の機能障害が4分の3以下に制限されたてなく非該当となった場合は、右膝の歩行 時痛を採用して右膝に「局部に頑固な神経症状残すもの」として12級13号該当となります。理由は 右膝痛の原因が右脛骨上端部骨折後の不正癒合に因るものであり医学的に証明できる右膝痛であること から12級になります。 ※2)注意点は後遺障害診断書に記載されている運動領域が測定規準通りに測定されていない場合が散見され ることです。そのため後遺障害診断書の主要運動領域の他動値、自動値を点検する必要があります。 1度の違いで非該当になったり12級認定になったりすることがあります。 正しい測定は「日本整形外科学会及び日本リハビリテーション医学会」により決定されています。具体 的には「関節可動域の測定要領」に基づき測定します。(労災補償 障害認定必携)にわかりやすく絵 図で書かれています。 ※3)本件の場合、膝関節の主要運動は伸展と屈曲です。 骨折が可動域制限の原因から他動値を採用します。 右膝関節(患測)伸展0度、屈曲90度、左膝関節(健測)伸展0度、屈曲130度の場合 130度×3/4=97.5度 > 90度 より右膝関節は3/4以下に制限されていることから、 12級7号該当となります。 ※4)基本的には他動値を採用して評価します。靱帯損傷や神経損傷のある場合は自動値を採用して評価しま す。 無料相談実施中はるかにご相談ください! 相談料無料、着手金0円、完全後払いの費用体系! 交通事故に関するどのようなご質問にもお答えいたします。 もちろん相談料は無料ですので お気軽にご相談ください。 ご予約・ご相談についてはこちら