うつ症状、PTSD

身体のケガだけでなく精神的な病状も後遺障害は認められます

精神的な病状の後遺障害交通事故による後遺障害の等級認定は、身体的なケガだけが対象ではありません。

精神的なショックを原因として、突然不安に苛まされてしまう「PTSD」や、ケガの痛みや今後の生活のことなど、さまざまな不安から発症してしまう「うつ病」などは、事故が原因であるとされるものであれば、後遺障害として等級認定される可能性があります。

 

非器質性精神障害の認定可能性のある等級
等級 症状
9級10号 通常の労務に服することはできるが非器質性精神障害のため、就労可能な職種が相当な程度に制限されるもの
12級相当 通常の労務に服することはできるが非器質性精神障害のため、多少の障害を残すもの
14級相当 通常の労務に服することはできるが非器質性精神障害のため、軽微な障害を残すもの

非器質性精神障害が認定された場合の賠償金額の例

40歳(就労可能年数27年)で

年収600万円の会社員の場合

※ 入通院慰謝料、休業損害、入院雑費、治療費・交通費等の金額が増額される可能性があります。
※ 具体的な事情によっては、金額が大きく異なりうるものです。

  •  基礎収入:600万円
  •  就労可能年数に対応するライプニッツ係数:14.643
9級10号が認定された場合
具体的な症例 通常の労務に服することはできるが,非器質性精神障害のため,就労可能な職種が相当な程度に制限されるもの
後遺障害の慰謝料 690万円
後遺障害の逸失利益 3075万300円
=600万円(年収)×0.35(労働能力喪失率)×14.643(ライプニッツ係数)
合計 3765万300円

12級相当が認定された場合
具体的な症例 通常の労務に服することはできるが,非器質性精神障害のため,多少の障害を残すもの
後遺障害の慰謝料 290万円
後遺障害の逸失利益 1230万120円
=600万円(年収)×0.14(労働能力喪失率)×14.643(ライプニッツ係数)
合計 1520万120円

14級相当が認定された場合
具体的な症例 通常の労務に服することはできるが,非器質性精神障害のため,軽微な障害を残すもの
後遺障害の慰謝料 110万円
後遺障害の逸失利益 439万2900円
=600万円(年収)×0.05(労働能力喪失率)×14.643(ライプニッツ係数)
合計 549万2900円

非気質性精神障害と後遺障害について

非器質性精神障害

脳の組織には直接物理的なダメージがないのにも関わらず、精神的な障害を負ってしまう状態を「非器質性精神障害」と呼び、PTSDやうつ病、パニック障害、外傷性神経症などがこれに該当します。反対に、事故によって外部から脳の組織へ物理的なダメージを与えてしまい、それが原因となって引き起こされる精神的な障害を「器質性精神障害」と呼び、高次脳機能障害はこれに該当します。


PTSDとは

PTSD(心的外傷後ストレス障害)とは、精神的に大きなショックを受けた場合に、強い精神的ストレスがココロのダメージとなって、心身ともに支障をきたし、社会生活にも影響を与えてしまう精神的な後遺症や疾患のことをいいます。

主な原因としては、交通事故のほかに、自然災害、火事、暴力などの犯罪被害があります。症状としては、事故や事件から時間が経過しているのにも関わらず、突発的に恐怖の感情を思い出してしまったり、解消することがない不安や緊張が続いたり、事故や事件に遭遇した場所を無意識のうちに避けるようになったりします。

その他にも、PTSDから引き起こされる睡眠障害、幸福感の喪失、感情の起伏が減ってしまい、物事に対する興味・関心がなくなることもあります。こういった症状が一時的なものではなく、何ヶ月も続くようであれば精神科や心療内科に相談し、適切な治療を受けることが大切です。


うつ病とは

うつ病とは、 憂うつな感情が強く長期間続き、仕事や日常生活に支障を来してしまうような症状のことを言います。交通事故を原因とするものとしては、事故による生活環境の変化、身体の痛みなどの不安からうつ病を発症することがあります。もちろん、日常生活において憂うつな気分になることは頻繁にあるものですが、通常の憂うつな気分であればなにかをキッカケとして改善したり、気分転換などによって改善するものです。

うつ病はそういったものでは改善せず、憂うつな感情が強く長期間続いてしまいます。 うつ病の症状には、精神的に現れる精神症状と、身体の痛みや睡眠障害として現れる身体症状があります。

精神症状

いつまでも気分が落ち込む、感情の変化が乏しくなり、物事へ興味を持つことや喜ぶ気持ちがなくなる 、体の動かすのが辛く動きが遅くなる・反対に、落ち着かずじっとしていられない、思考や集中力の低下 、やる気の低下、ネガティブな思考などの症状を精神症状と言います。

身体症状

夜になっても眠れない・反対に眠気が強く起きることができない、食欲の低下・増加 、疲労感、倦怠感 、頭痛、肩・腰・背中などの痛みっといった症状をなど身体症状と言います。

うつ病は、脳の機能に障害が起きていることを原因とするため、気持ちの問題で起こるものではありません。思い当たる症状があれば、精神科や心療内科にご相談ください。

後遺障害等級認定には条件があります

PTSDやうつ病といった、脳組織や脊髄などの神経組織、他の身体組織にダメージがないのに引き起こされる記憶障害が後遺障害として認定されるには、厚生労働省が通達した労災の障害等級認定基準に該当することが条件となります。交通事故による後遺障害の認定には、労災の基準が使用されているからです。具体的には、(ア)の精神症状のうち、ひとつ以上の発症が認められることが必要であり、かつ、(イ)の能力に関する判断項目のうち、ひとつ以上の能力について障害(能力の欠如や低下)が認められることが後遺障害等級認定には必要です。

(ア)精神症状

抑うつ状態

憂うつな気分が長期間続き、行動意欲が減ってしまう、感情の変化が乏しくなり、楽しいことを感じられなくなるなどの症状を抑うつ状態に当たります。

不安の状態

ありとあらゆることへの不安や恐怖、「自分は重病だ」と思い込んでしまう心気症、強迫観念などの強い不安が続き、耐えがたい苦悩を示すことが不安の状態に当たります。

意欲低下の状態

すべてのことに対して関心を持てなくなり、自発性が低下し、自分から進んで行動しようとせず、なにか行動を起こしても長続きしない。口数が減り、日常生活においても身の回りのことに気を遣うことができなくなり、無精となる症状を意欲低下の状態に当たります。

慢性化した幻覚・妄想性の状態

自分がなにか噂されている声が聞こえる、悪口が聞こえる、命令する声が聞こえるなど、実際には存在していない声について、実際にあるかのように知覚体験すること(幻覚)や、自分は他者から危害を加えられている、食べ物や薬に毒が入れられている、自分は特別な能力を持っているなど、実際とは内容が間違っていることを確信してしまうこと(妄想)を、持続的に示す症状が慢性化した幻覚・妄想性の状態に当たります。

記憶または知的能力の障害

脳組織や脊髄などの神経組織、他の身体組織にダメージがないのに引き起こされる記憶障害として、解離性(心因性)健忘があります。自分が誰で、どんな生活を送ってきたのかをすっかり忘れてしまう全生活史健忘や、ある一定の過去や出来事のを思い出せない状態が解離性(心因性)健忘に当たります。

その他の障害(衝動性の障害,不定愁訴など)

その他の障害には、上記(1)~(5)には分類できない症状や、多動性障害、衝動行動、徘徊、身体的な痛みなどの自覚症状や、頭が重い・イライラするといった、何となく体調が悪いという不定愁訴などがあります。


(イ)能力に関する判断項目

身辺日常生活

規則的に十分な食事を摂ることができるか、入浴や衣服を着替える(更衣)といった清潔保持の行動を適切に行うことができるかについて判定されます。なお、食事・入浴・更衣以外の動作については、特筆すべき事項がある場合にのみ、加味して判定されます。

仕事・生活に積極性・関心を持つこと

仕事の内容や、職場での生活や働くといった行動そのものについて意欲や関心があるか、世の中の出来事や、テレビ、娯楽などの日常生活に対する意欲や関心があるか否かについて判定されます。

通勤・勤務時間の遵守

毎日の規則的な通勤や出勤時間を守るなど、約束した時間を遵守することができるかについて判定されます。

普通に作業を持続すること

ほかの社員と同じように就業規則に則った就労が可能か、普通の集中力・持続力を保ちながら業務を遂行できるかどうかについて判定されます。

他人との意思伝達

職場における上司・同僚などに対して、自主的に発言ができるかなど、他人とのコミュニケーションを適切に取れるかについて判定されます。

対人関係・協調性

職場において上司・同僚と円滑な共同作業を行ったり、社会的に行動を適切に行うことができるかについて判定されます。

身辺の安全保持、危機の回避

職場において危険などから適切に身を守ることができるかについて判定されます。

困難・失敗への対応

職場において業務上のストレスを新たに受けたときに、ひどく緊張したり、混乱することなく対応することができるかなどについて判定されます。


精神的な症状を判定するには就労意欲が関わってきます

上記のような(ア)精神症状、および(イ)能力項目に関する判断項目に照らし合わせて、事故を原因とした後遺症が認められる場合、その障害の程度に応じて後遺障害の等級が認定されます。その際、どれだけ仕事を円滑に行えるかという就労意欲が関わってきます。

a. 就労している者または就労の意欲のある者

現在仕事に就労している人や、就労したいという意欲はありつつ就労はしていない人については、(ア)精神症状のいずれか1つ以上が認められる場合に、(イ)能力に関する判断項目の各々について、その有無及び助言・援助の程度によって後遺障害を認定します。

b. 就労意欲の低下または欠落により就労していない者

就労意欲が低下したり、就労意欲が欠落したことによって就労していない人は、身辺の日常生活が可能である場合には、(イ)能力に関する判断項目の(1)身辺日常生活の支障の程度でにより後遺障害を認定します。


具体的な関係性について

通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、就労可能な職種が相当な程度に制限されるものは9級に認定されます。

「a.就労している者または就労の意欲のある者」に該当する場合

(イ)能力に関する判断項目の(2)~(8)のいずれか1つの能力が失われている場合や、(イ)能力に関する判断項目の4つ以上についてしばしば助言や援助が必要と判断される障害を残しているものが該当します。

「b.就労意欲の低下または欠落により就労していない者」に該当する場合

身のまわりの日常生活において、ときどき助言や援助を必要とする程度の障害が残っているものが該当します。


通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、多少の障害を残すものは12級に認定されます。

「a.就労している者または就労の意欲のある者」に該当する場合

(イ)能力に関する判断項目の4つ以上について、ときどき助言や援助が必要であると判断される障害を残しているものが該当します。

「b.就労意欲の低下または欠落により就労していない者」に該当する場合

身の回りの日常生活を適切に行える、またはおおむね適切に行えるものが該当します。

非気質性精神障害と後遺障害について

交通事故によって引き起こされた精神的な障害であるという証明が重要です

弁護士医師の診断書でPTSDやうつ病のような病名が書かれるだけでは、後遺障害として認定されません。その症状が交通事故によって引き起こされたものあるという証明が重要です。

同じ精神障害でも、脳組織や脊髄などの神経組織、他の身体組織にダメージを与えたことが原因(器質性のもの)である場合は、その損傷した部分を画像などで確認できれば、交通事故によって発生したものであると客観的に考えることができます。

しかし、PTSDやうつ病のような、組織にダメージがないのに引き起こされる精神障害(非器質性のもの)の場合は、画像などを用いて客観的に証明することは困難です。

また、非器質性の精神障害は交通事故だけでなく、家庭環境や職場環境が影響して発症する可能性もあります。因果関係を確認するには、自賠責保険の実務上、主に以下のポイントから総合的に判断することになります。

  •  事故状況
  •  受傷内容
  •  精神症状の出現時期
  •  精神科等の専門医への受診時期

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